「知財金融」のススメ~事業性評価と知的財産~/知財金融対応委員会 弁理士・弁護士 加藤 光宏
- 特許(発明)
- 意匠(デザイン)
- 商標(ブランド)
- 戦略/活用
◆新しいキーワード「知財金融」!
昨今、知的財産に関係したキーワードの一つとして、「知財金融」が注目を集めています。知財金融と聞くと、知的財産権(特許権、意匠権、商標権など)を担保に融資を受けることをイメージするかも知れません。確かに、一時期はそういったことが検討された時期もありました。
しかし、今では、どちらかというと、知的財産権を踏まえて企業の事業性を評価し、融資に結びつけるという動きの方が主流になってきています。
事業性とは何でしょうか?
企業が金融機関から融資を受けようとする場合、担保を求められるのが通常です。しかし、金融機関は、担保のみで与信判断している訳ではありません。安定して成長が見込める企業か否かも評価しようとしています。粗っぽい言い方かも知れませんが、このような事業の安定性や伸び代のことを事業性と言います。事業性は、企業の有する技術やノウハウ、販路、取引先などの事業環境、人材など、いろいろな要素で評価されます。そして今、知的財産権も、この事業性を評価するための重要な要素として着目されているのです。
知財金融には、まだ確定的な定義はありませんが、今の状況に照らして言えば、企業にとっては知的財産権を活用して事業性を向上させ、ひいては事業活動に欠かせない融資に結びつけていくことと言えますし、金融機関にとっては、知的財産権を要素の一つとして事業性評価を行って、企業に融資していくこと、ひいてはその融資が活きるように企業活動を支援していくことと言うことができるのではないでしょうか。
◆事業性評価に活きる知的財産とは
知的財産というと、すぐに特許権だけをイメージする方もみえると思いますが、そうではありません。知的財産には、特許権の他、実用新案権、意匠権、商標権も含まれますし、著作権、ノウハウ、営業秘密なども含まれます。さらに熟練工による匠の技なども広い意味では知的財産(知的資産とも呼ばれます)と言うことができます。ただし、ここからは、話を分かりやすくするため、特許権、実用新案権、意匠権、商標権という知的財産権に絞って話を進めることにします。
では、事業性評価に活きる知的財産権とは、どういうものでしょう?企業は、特許権などの知的財産権をとにかく多くの件数取得しておけば良いのでしょうか。また、金融機関は、これらの件数だけで事業性を評価すれば良いのでしょうか。
ここで、知的財産権の役割を考えてみたいと思います。
ニュースでは、特許権などの侵害でいくらの損害賠償を勝ち取ったなどの紛争事件が取り上げられますので、知的財産権は、このような訴訟をして損害賠償を勝ち取ってこそ価値があるというように考えがちですが、実は、このような派手な舞台に立っていない知的財産権こそがとても大切なのです。
知的財産権は、第三者が模倣してきたときに、それをやめさせ(差止請求と言います)、損害賠償を請求できる強力な権利です。知的財産権があれば、企業は、自身の製品やサービスをこの強力な権利で守ることができます。
例えば、図にあるように、競合他社は、自社の特許を回避する道を探らなくては同じような製品を作ることができません。また、自社のヒット商品のネーミングが商標で守られていれば、競合他社は、そのネーミングをマネすることはできず、他のネーミングを考えなくてはなりません。このように知的財産権で自身の事業を守ることができれば、自社の土俵を踏み荒らされることなく事業を行うことができ、自社の利益を高めることができます。
このように知的財産権は、自社の事業を守るための障壁として機能するのです。訴訟で損害賠償を勝ち取るという派手なニュースにならない知的財産権でも、自社の事業を守るという大切な役割を果たすのです。
どれだけヒット商品を開発したとしても、知的財産権で守られていなければ、すぐに他社にマネされ、追いつかれてしまいます。せっかくのヒット商品が自社の利益に結びつきません。このような状態では、とても事業性が高いと評価することはできません。
つまり、事業性評価に活きる知的財産権とは、自社の事業をきちんと守ることができるものを言うのだということになります。知的財産活動を行っていくと、いつの間にか、権利をとることが目的になってしまい、件数は多くても、事業をきちんと守りきれていないことも生じます。また、知財活動にあまり意識を向けず、事業がほとんど知的財産権で守られていないこともあります。技術にばかり目を向けており、意匠や商標が守られていないこともあります。
自社の事業と関連する知的財産権を獲得していくことが大切です。
◆今こそ知財金融を
ところが、ここに大きな壁があります。事業と関連する知的財産を見つけるには、目利きが必要だということです。知的財産には、いろいろなものがありますから、企業が営む事業の中で、何が知的財産として保護できるのか、また何を保護すべきなのかを発掘することは簡単ではありません。こんなときは、是非、知的財産の専門家である弁理士をご活用下さい。
一方、金融機関にとっても、顧客企業が保有している知的資産が事業にどのように活かされ、知的財産権として守られているのかを評価することは簡単ではありません。そこで日本弁理士会東海会では、職員向けのセミナー、職員と顧客と弁理士が参加する座談会などを開催したり、職員が知的財産について質問できる「知財ホッとライン」を設けるなどの活動を行っています。また、顧客企業の有する知的財産権と事業との関連性を簡易に評価する知財評価レポートの作成を行う場合も有ります。金融機関とより緊密に連携できるよう、いくつかの金融機関とは連携協定も締結いたしました。
知財金融は、企業、金融機関、専門家が連携してこそ進められます。今こそ、知財金融に取り組んでみませんか。