新聞掲載記事

警告を受けたらどうする?~それは突然やって来る(商標編)/弁理士 齊藤 純子

  • 商標(ブランド)
  • 契約/紛争

 郵便を開封したら警告や通知、通告の文字が並んでいたり、ファクシミリで警告書と記載された書面を受け取ったりすると、かなり驚きます。送り主(相手方)が弁護士、弁理士の氏名と共に記載されていると尚更です。書面の内容は、貴方や貴方の会社(貴社)の何等かの行為が相手方所有の商標権を侵害するため、行為を中止し、回答の送付を求める、というのが典型的です。このような書面を受け取ったら、無視や放置をすることなく、落ち着いて、いくつかの点を検討することから始めます。以下、対応にあたり検討すべき主な点を説明します。但し、事案の性質や、相手方との関係などによって対応も異なりますので、その点はご注意ください。
 まず、文面を注意深く読み、記載内容を把握します。回答期限が設定されていれば期限の管理をします。回答期限が短い場合や、対応の検討に時間が必要なときは、検討中であるため延長してほしいとの書面を期限近くに送ります。
 次に、相手方が侵害を主張する商標権の有効性及び内容を確認します。実際の登録商標、指定商品又は役務(サービス)の範囲、存続期間などを確認し、相手方がその商標権所有者または権利を主張できる者かを確認します。これらの事項は商標公報や特許庁の登録原簿で確認できます。
 次に、貴社の商標使用状況を把握し、その使用が相手方の商標権を侵害しているかどうかを検討します。まず、使用商標が相手方の登録商標と同一又は類似かどうかを検討し、さらに貴社が商標を使用している商品、役務が、相手方の登録商標の指定商品、役務に重なっているか、或いは類似かどうかを検討します。商標権の権利範囲は、同一又は類似の商標を同一又は類似の商品、役務に使用することに限られるため、貴社が商標を使用する商品や役務が、相手方権利の指定商品、役務と類似しない時、たとえ商標が同一でも権利範囲に含まれないからです。ただ商標及び商品、役務の類似範囲は、取引の実情も考えて検討しますので、貴社の行為が商標権の範囲に含まれるかの判断は容易ではありません。
 その他、特別の事情の有無も確認します。たとえば、貴社の商標の使用が、貴社商品と他の商品を区別するような使用(商標的使用)なのか、また相手方の登録商標は3年間継続して使用されているのか(使用されていない場合は、不使用取消審判請求の対象になります)、さらには、相手方商標が無効理由を有するものか等を検討します。また、貴社が相手方の商標権の出願日前からその商標を使用し、出願時に周知(自己の業務にかかる商品、役務を表わすものとして需要者の間に広く認識されていること)になっている場合に、引き続き自己の商標を使うことが認められる先使用権を主張することもできます。但し、周知性の証明は難しく、先使用権が認められる実際のケースは多くはありません。
 以上、相手方の権利を確認し、貴社の使用商標と商標を付した商品、役務を相手方の商標、指定商品、指定役務と比較し、そして先使用権、無効理由の有無などの特別な事情を考慮した上で、警告書への対応方針を決定し、回答書を作成して相手方に送付します。
 対応としては、いくつかのパターンが考えられます。
 まず、貴社の商標使用行為が、相手方の商標権侵害に該当する虞れがある場合は、その行為を中止し、相手方に伝えます。もし継続して使用することを希望する場合は、その旨を伝え使用許諾(ライセンス設定)をお願いする場合もあります。相手方がライセンス設定に前向きであれば、その後はライセンス契約の交渉に進むことが考えられます。一方、相手方の主張に対し、商標が類似しないなどの理由で反論する場合は、その理由を具体的に説明します。ただ相手方が納得するかどうかは分かりませんし、その後もやり取りをして、最後は裁判所に判断を委ねることになる可能性もあります。
 以上、警告書を受領した場合の主な検討事項と対応を説明しましたが、侵害の有無の判断や特別な事情の調査検討、回答書の作成などは専門的な知識が必要な場面が多いため、弁理士や知財に明るい弁護士などの専門家に相談することをお勧めします。

ページトップへ