特許紛争物語~おにぎりパック事件第4話「先使用権の主張」~/教育機関支援機構 弁理士 高田 珠美
- 特許(発明)
- 契約/紛争
近藤パリ子が販売するおにぎりパックの類似商品を製造販売する芹沢ノリオは、代理人の弁理士新見タダシの協力を得て、近藤パリ子の特許に対し無効審判を請求したが、証拠不十分でパリ子の特許を無効にすることができなかった。安堵するパリ子と、パリ子の代理人の土方トシオ。窮地のノリオ、反撃開始である。
ノリオ「ぐぬぬぬ、おのれ、わてには、日本弁理士会の休日パテントセミナーで伝授された、伝家の宝刀『先使用権』があるんやっ!」
土方「えぇ、先使用権?」
ノリオ「せ、せやっ、わての方が早うに商品化したし、世間様にもわての商品を広く認知してもらっとるんやっ!どや、パリ子はん、観念しぃや!」
パリ子「なんですって…」
土方「あの…よろしいでしょうか?先使用権は、近藤パリ子さんが特許出願をする前に、芹沢ノリオさんが商品化していなければ、主張することはできませんよ。」
ノリオ「なっ、なんやて!」
土方「先使用権は、特許法79条に規定されています。読みにくい条文なので簡単に説明しますね。先使用権は、他人の特許出願の内容を知らないで自らその発明をし、他人がした特許出願の時点でその発明について実施していた場合などには、特許権者から権利を行使されないという内容です。先に実施を開始した先使用者が事業を継続できるようにすることによって、特許権者と先使用者との間の公平を図るための制度なのですよ。」
土方「こちらの参考図をご覧ください。一目瞭然ですね。芹沢ノリオさんがダイヤ形の孔がある設計変更後の商品を売り出したときには、近藤パリ子さんは既に特許を出願しています。その出願より前に芹沢ノリオさんが実施の準備をしていたとも考えられません。これではノリオさんは、パリ子さんに対して先使用権を主張することはできませんよ。」
パリ子「ああ、よかった。土方先生、頼りになるわ。形勢は私たちに断然有利ですね!」
土方「長年弁理士やっていると、この位のことは、なんでもありませんよ。いろいろ乗り越えていきましょう!」
再び安堵するパリ子。再び追い込まれたノリオ。
ノリオ「むむ…くはぁ、もはやこれまでか…。ほなやっぱり切腹せんとあきまへんなぁ。」
新見「なぜまたそうなるんですか!?」(次回に続く。この物語はフィクションです)
*第1話から第3話は日本弁理士会東海会のウェブページで読むことができます。
参考図