侵害訴訟に強いソフトウエア特許とは?/弁護士・弁理士 水野 健司
- 特許(発明)
- 契約/紛争
■相手方の技術資料を使いたい
ソフトウエア特許に限らず、侵害訴訟の場面では立証に必要な資料が相手方の管理下にあるということは珍しくありません。
近時の裁判例(知財高裁平成28年3月28日判決)では、特許クレームの侵害を証明するため、必要な書類の提出命令について、これを拒む正当な理由があるか否かが争われました。具体的には、ある通信方法の設定によりAの結果が生ずるか否かについて対象機器を外形的に観察するだけでは偶然を待たなくてはならないため、製造者側の技術資料を確認してAとする設定が可能となっていることを証明しようとしたのです。
この点、裁判所は、書類提出を拒む正当な理由、つまり秘密保護の必要性があるかないかの判断を、裁判所のみが書類を確認するというインカメラ手続で行いました。
その結果、書類の提出は認められずその構成要素は立証できず、非侵害との判断でした。仮に、構成を備えていることが確認できた場合、秘密とする必要性は小さくなることから書類の提出命令は認められたものと予想されます。つまり技術資料により裁判所が侵害の有無を判断したことになるわけです。
■裁判所が侵害の判断をしてくれない
ソフトウエア特許の侵害紛争では、訴訟の場面になって立証の問題が明らかになることがあります。特許侵害というには、クレームの全ての構成要素について対象製品が充足していることが必要になります。
日本の侵害訴訟では、裁判所の厳しいクレーム解釈や、例外として侵害を認める均等侵害の限定的な適用があり、アイデア自体は採用していて侵害のようにみえても、細部の構成要素の違いにより非侵害と判断されてしまうという問題があります。
■侵害判断を勝ち取るためのポイント
現状から侵害訴訟に強いソフトウエア特許を取得するためには、(1)マニュアル操作を自動化した構成も侵害となるように表現されていること、(2)逆アセンブル等で解析しないと確認ができない処理や信号を構成要素としないことが必要です。
相手方の製品で確認できる構成要素は、製品の操作で確認できるものとマニュアル・カタログで確認できるものに限られることに留意すべきです(図参照)。
もっとも特許を取得することの意義は、侵害訴訟の場面だけではなく、自社技術の可視化や資産化、技術力・交渉力の向上、広告・宣伝効果、事業の安定化といったことにもあることは再度確認し、特許を取得することの主目的を再度確認しておくべきでしょう。