新聞掲載記事

実はリスキー?「商標ライセンス」/弁理士 廣田 美穂

  • 商標(ブランド)
  • 戦略/活用

久しぶりに商標の記事です。今回は、「商標ライセンス」に関する話題を取り上げます。

1.大型商標ライセンス契約の終了
 ここ数年、大型商標ライセンス契約が終了して話題となった事例がいくつかありました。次の事例は、購読者の皆さまの記憶にも新しいのではないでしょうか。
(1)三陽商会(株)は、英国バーバリーグループとの商標ライセンス契約に基づいて、「バーバリー・ブルーレーベル」等のブランド製品を販売してきたが、2015年に契約が終了した。現在では、バーバリーグループが「バーバリー」ブランドを展開し、三陽商会(株)は後継ブランドの「ブルーレーベル・クレストブリッジ」等を展開している。
(2)Meiji Seikaファルマは、米国ムンディファーマ社との商標ライセンス等の契約に基づき、「イソジン」ブランドの殺菌消毒薬を製造販売してきたが、2015年に契約が終了した。現在では、ムンディファーマ社から販売委託を受けたシオノギヘルスケアが「イソジン」ブランド製品を販売し、Meijiは「明治うがい薬」を製造販売している(なお、イソジンに使ってきたカバのキャラクターのイラストの商標権はMeijiが保有しており、引き続き「明治うがい薬」のパッケージ等に使用)。
(3)旧ヤマザキナビスコ(株)は、米国モンデリーズ・インターナショナル社との商標ライセンス等の契約により、「ナビスコ」ブランド及びトライアングルマークの使用許諾を受け、「オレオ」、「リッツ」等の4ブランド製品を製造販売してきたが、2016年に契約が終了した。現在では、モンデリーズ・ジャパン(株)が前記ブランド製品を製造販売し、旧ヤマザキナビスコ(株)は商号をヤマザキビスケット(株)に変更して、新ブランドの「ルバン」、「ノアール」を販売している。

2.商標ライセンスのリスク
 商標ライセンスは、許諾する側にも受ける側にもメリットがあるからこそ、契約締結されるものです。前記の例でも、許諾する側は、自社で在庫を抱えるリスクを避けつつ製品を現地化してもらえる上に、ライセンス料収入を得られ、受ける側は、著名商標を借りることで、0からブランドを立ち上げて認知度を高める労力と時間を節約でき、当初は双方に大きなメリットがあったと考えられます。
 もっとも、ライセンスが考慮されるのは、著名商標だけに限られません。身近な例では、自社が採用したい商標と同一・類似の商標を第三者が既に登録している場合、ライセンスが一つの解決方法として考慮されることがあります。先行商標の登録の取り消しが難しいとか、商標権を譲ってもらえない等、他の手段が使えないときに、考慮されるわけです。
 しかし、ライセンスは、他社の権利を借りて使わせてもらうものであり、許諾された側の立場は不動ではありません。許諾の内容は、あくまで“一時的な”ものです(たとえ、契約期間終了後の自動延長の条項があったとしても、場合によっては認められないこともあり得ます)。ですから、契約期間終了により商標を使用できなくなったり、ライセンス料の高額改訂を求められたり…というリスクを孕んでいます。特に、主力製品や基幹事業の商標がライセンスを受けていると、こういったリスクは看過できません。前記で挙げた事例も、数十年に亘って信用を蓄積してきた商標が使えなくなり、ビジネスモデルの大転換を迫られた事例でした。
 現状使用している商標を変更して短期的なデメリットを被るとしても、長い目で見ると、自社自身で商標登録して権利を持つ方が、安全な場合もあるでしょう。とはいえ、ライセンスを考慮する時点では、種々の事情により契約締結せざるを得ない事態にあるのでしょうから、契約内容については十二分に吟味する必要があります。専門家のサポートを受ける必要があることは言うまでもありません。

ページトップへ