IoT特許の動向と特許庁審査基準
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近年、IoT(Internet of Things モノのインターネット)という言葉が、メディアに頻繁に登場するようになりました。IoTは、「モノ」がインターネットと接続されることで取得されるデータを活用して新たな価値やサービスを生み出す技術として注目され、研究開発やビジネスへの適用が急速に進んでいます。IoTに関する特許も多数出願され、登録されるようになっています。そこで、IoT特許の動向と特許庁審査基準について紹介します。
(1)IoT特許の動向
次のグラフはIoT特許の日本特許庁への出願件数の推移を示しています。
グラフからわかるように2016年に出願件数が大幅に増加しています。IoTやAIを中心とする第4次産業革命が始まり、IoT関連の技術開発が急速に活発化したと考えられます。
一方、特許庁では2017年からIoT関連技術を用途別に細分類しています。次のグラフは、特許庁の審査をパスして登録されたIoT特許1189件のうち、用途別分類が付与された1028件の内訳を示しています(J-PlatPatによる調査結果。2018年9月1日現在。)。
サービス業用の特許が最も多く、200件を超えています。ホームアンドビルディング用・家電用、運輸用、ヘルスケア用・社会福祉事業用がこれに続き、100件を超えています。農業用や建設業用等は、まだ登録件数こそ少ないものの、IoTの活用が期待される分野ですので、今後の増加が見込まれます。
次に、各用途でどんな特許が取得されているか、IoT特許の事例を紹介します。
家電用の事例:特許6311134号『洗濯計画作成装置及び制御方法』。使用者が洗濯したい対象物の種類、量、洗濯後の保管期間に応じた最適な洗濯日時の候補を元に洗濯日時を決める装置等の特許。
ヘルスケア用の事例:特許6382433号『保育管理システム、サーバ装置、保育管理プログラム及び保育管理方法』。保育対象者のバイタルデータの比較により健康状態を評価するシステム等の特許。
農業用の事例:特許6360347号『穀物乾燥システム』。コンバインとサーバとの間でネットワークを介して情報を送受信して最適な穀物の乾燥処理を行うシステムの特許。
漁業用の事例:特許6130540号『IoT基盤のスマート海女安全システム』。海女たちの操業中に発生するおそれのある事故の予防や、事故発生時の対応などを行うシステムの特許。
このように、様々な用途で特有の工夫が施されたIoT特許が誕生しています。
(2)特許庁審査基準
IoT関連技術の適切な保護のため、特許庁は2017年に「IoT関連技術の審査基準」を公表しています。基本的に他のコンピュータソフトウエアを必要とする技術と判断基準は変わらないとしつつ、いくつかの基準や考慮事項が示されています。
・データが情報の単なる提示に該当する場合には、「発明」に該当しない。
・データのうち「構造を有するデータ」及び「データ構造」については、「プログラムに準ずるもの」に該当し得る。
・プログラムに準ずる「構造を有するデータ」及び「データ構造」は、ソフトウエアとして、「発明」に該当するか否か判断する。
・学習済みモデルが、「プログラム」であることが明確な場合は、「プログラム」として扱う。
・IoT関連技術等の発明においては、引用発明との相違点に関し、「モノ」がネットワークと接続されることで得られる情報の活用、特定の学習済みモデルから得られる特有の出力情報、又は、特定の構造を有するデータによって規定される特有の情報処理による有利な効果が認められる場合がある。このような場合は、進歩性の判断において、当該効果を「進歩性が肯定される方向に働く要素」の一つとして考慮する。
以上の審査基準を踏まえると、各分野における特有の情報等を含めて発明の特徴を明確化することが特許の取得につながると言えると思われます。IoT技術を用いた新製品や新サービスについて特許の取得を目指す場合は、権利化方針について弁理士とよく相談されることをお勧めします。
弁理士 藤川 敬知