音楽教室と演奏権~演奏に演奏権は及ぶのか?~/知財周辺法委員会 弁理士 小池 浩雄
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前回私がこの欄を担当した記事が掲載されたのは平成30年1月であり、「音楽教室での楽曲演奏は演奏権を侵害するのか?」というタイトルで執筆させて頂きました。これは、日本音楽著作権協会;JASRACが今まで未徴収であった音楽教室での管理楽曲の演奏に対し著作権料を徴収する方針を固め、音楽教室事業者に書面で通知を行い意見を求めたところ、事業者の約340社が「音楽教室を守る会(以下、守る会)」を結成し、「音楽教室における著作物の利用に著作権法第22条に規定する演奏権は及ばず、JASRACには使用料の徴収権限がない」旨を回答しました。すると、JASRACは「(前記回答は)見解を述べているに過ぎない」と判断し、文化庁に使用料規定を提出しました。これに対して「守る会」が、「JASRACには使用料の徴収権限がない」ことを確認するため「請求権不存在確認訴訟」を東京地方裁判所に提起した事件の解説です。当時は未だ判決が出ておらず「裁判所の判断が注目されます」で記事を終えましたが、その後、第一審及び控訴審の判決が出ていますので、それらの経緯を説明します。
著作権法22条(上演権及び演奏権)には、「著作者は、その著作物を、公衆に直接見せ又は聞かせることを目的として上演し、又は演奏する権利を有する」と規定されています。
第一審では、①音楽教室事業者である原告らは、音楽著作物である被告管理楽曲の利用主体である、②教室内にいる生徒は「公衆」である、③教師は、著作権法22条にいう「公衆」である生徒に対し、生徒は、「公衆」である他の生徒又は演奏している自分自身に対し、「直接(中略)聞かせることを目的」として演奏をしている、ことから演奏権が及ぶと判断され、著作権侵害に基づく損害賠償請求権及び不当利得返還請求権のいずれの存在も認め、原告の請求が棄却されるという結果でした(令和2年2月28日判決言渡)。
これに対して、原告側が控訴しました。控訴審では原判決の一部が覆り、音楽教室における教師による楽曲の演奏には演奏権は及ぶが、生徒による楽曲の演奏については、「音楽教室における生徒の演奏の本質は、あくまで教師に演奏を聞かせ、指導を受けることにあるというべきである」、「生徒の演奏は、教師の指導を仰ぐために専ら教師に向けてされているのであり、他の生徒に向けてされているとはいえないから、当該演奏をする生徒は他の生徒に「聞かせる目的」で演奏しているのではないというべきであるし、自らに「聞かせる目的」のものともいえないことは明らかである」と判断され、演奏権は及ばない、となりました(令和3年3月18日判決言渡)。
一方で、教師による演奏は確かに生徒に向けてされているものですが、その目的は、専ら生徒の演奏技術の向上を図ることにあるという意見もあります。著作物は「思想又は感情を創作的に表現したもの(第2条)」です。そのような目的の演奏について、一般的な楽曲の鑑賞のように、表現された感情等を味わうものと同視するべきか、という点には、「文化の発展に寄与する(第1条)」という著作権法の法目的の観点からも、議論の余地があるように思われます。
控訴審の結果に対しては、控訴人、被控訴人の両者が共に上告しており、現在最高裁での審議が行われています。本年9月29日には、最高裁第1小法廷において、生徒の演奏について双方の主張を聞くための口頭弁論が開かれ、最高裁判決が10月24日に出ることになりました。最高裁で最終的にどのような判決が出されるのか、やはり注目されます。