産地偽装に対する不正競争防止法からの対応/知財周辺法委員会 弁理士 小林 洋平
- 時事
・食品の産地偽装問題
昨年末には鹿児島の会社が、中国産のゴボウを青森県産であると偽装し、長年に渡って継続して販売していたというニュース(ゴボウ産地偽装事件)がありました。我が国では、先の事件の報道を忘れない時期に食品の産地や品質の誤認を招く偽装問題が繰り返し行われています。例えば、熊本県産アサリ産地偽装事件、全農チキンフーズ鶏肉偽装事件、ミートホープ牛肉偽装事件、一色産うなぎ蒲焼偽装事件、三笠フーズ事故米不正転売事件、新潟県産米産地偽装問題、氷見うどん事件などが挙げられます。
これらの事件の多くは、高品質・高価格というブランドイメージが付いている食品の信頼に依拠し、低価格で仕入れた産地の異なる食品を使用して、偽装することにより多額の利益を得ようとすることにより発生しています。
食品の産地偽装は、消費者において高品質であるというブランドイメージに対する不安を起こさせるだけでなく、偽装された食品の販売店や偽装された食品を使用して加工食品を製造・販売したメーカーへの信頼を失わせてしまうという問題が生じ、適正表示によって取引を行っている事業者から顧客を奪うことにより、公正な競争秩序を阻害します。
・食品の産地偽装に対する対策
食品の産地偽装に対しては、不正競争防止法だけではなく、刑法(詐欺罪)、食品衛生法、JAS法、景品表示法などのいくつかの関連法令があります。このうち不正競争防止法(不競法)では、2条1項20号において、商品等の広告や取引書類などに、その商品の原産地や品質等について誤認させるような表示等をする行為を不正競争行為と定め、民事上及び刑事上の責任を追求できる旨の規定があります。刑事的には、私人に対しては5年以下の懲役又は500万円以下の罰金、法人に対しては3億円以下の罰金が規定されています。また、民事的には、差止請求、損害賠償請求、信用回復の措置などが規定されています。
・不競法における民事上の責任追及についての限界
不競法上の民事責任の請求主体は、産地偽装行為によって、営業上の利益を侵害され、又は侵害されるおそれがある者に限られています。通常は、競争関係にある事業者が該当すると考えられます。例えば、ゴボウ産地偽装事件では、正規に青森県産のゴボウを販売しており、偽装ゴボウの商域と重なることで売上を落としてしまった小売店が該当します(なお、産地偽装食品を購入した事業者は、不競法とは別に、民法上の責任(瑕疵担保責任や債務不履行など)を問うことは可能です)。
このような規定のため、産地偽装された商品を購入した一般消費者は、不競法上の民事請求を行うことができません。
また、産地偽装によって発生した損害額を見積もることが非常に難しいことから、不競法上の民事責任を追及した事案は多くは認められません。これに対し、不競法上の刑事責任が追及された事案の方が多いようです。
・産地偽装に対しての結論
上記のような限界はあるものの、産地偽装を暴かれた会社については、適当なニュース報道が行われ、インターネット・SNS等を通じた責任追及もなされるため、相当のダメージを受けることとなります。このため、営業を続けることが困難となり、多くの場合には会社を精算することとなっています。こうして、不正競争を行う者は市場から排除され、公正な競争を行う者のみが残っていくという枠組みが確保されていると考えられます。
不競法に基づく産地偽装の取り扱いについて、更に詳しく知りたい場合には、経済産業省のHP中にある不正競争防止法テキストや、不正競争防止法逐条解説などを参照できます。