海外ビジネスに携わる経営者の方へ~PCT出願をご存知ですか?~/国際知財委員会 弁理士 永原 彩子
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海外展開を考えた際、自社の技術が現地企業や、同じく海外進出する外国企業に模倣されるリスクについて、お悩みではないでしょうか。模倣品への対策としては、日本で特許を取得するだけでは十分ではありません。安心して海外で製造販売を行うには、製造拠点や販売市場となる国々でも、それぞれ特許権を取得することが非常に重要です。
外国で特許権を取得するには、二つの方法があります。一つ目は各国の特許庁に直接出願する方法、二つ目は国際出願制度(いわゆるPCT出願制度)を利用する方法です。複数国での特許権取得を考えた際におすすめなのが、今回ご説明する「PCT出願制度」です。このPCT出願制度を利用すれば、事業の進展や特許性の有無を確認するための時間的余裕を確保しながら、各国での特許権取得を進めることができます。
PCTとは、特許協力条約(Patent Cooperation Treaty)の略で、外国における特許権取得手続きの、簡素化を目的としています。具体的には、一つの出願手続きで、複数国で同時に出願したと同等の効果を得ることができます。そして、出願後、原則30か月以内に、翻訳文の提出や手数料納付等の手続きを行うことで、各国の国内手続に係属させることができます。この手続を『国内移行手続』といいます。
日本国特許庁へPCT出願をする場合、日本語又は英語で出願書類を提出できるため、既に日本国内で特許を出願又は権利化済みであれば、明細書等をそのまま使用できる場合もあります。そして、PCT出願を行うと、先行技術の有無や、新規性・進歩性等の条件を満たしているか等、審査官の見解が記載された「国際調査報告書」が提供されることも、メリットの一つです。なぜなら、出願人は、この国際調査報告書の内容を踏まえて、次のアクションを検討することが可能となるからです。対して、各国へ直接出願をする場合、基本的に何らかの審査手続きが開始しない限り、審査官の見解を得ることはできません。残念ながら拒絶となった場合、出願及び審査に要した費用や時間が無駄となってしまいます。事前に審査官の公式な見解を得られるこの「国際調査報告」という仕組みは、出願人にとって費用・労力の節約となるのです。
また、例えば既に日本で出願をしており、後にビジネス展開する国へ直接出願を行う場合、日本出願から一年以内に出願国の言語に翻訳した明細書等の提出を要するため、非常にタイトなスケジュールとなります。一年を過ぎてしまうと、日本で出願を行った日付を基準として、新規性・進歩性等の判断をしてもらえる「パリ優先権」の恩恵を受けられなくなってしまうからです。一方で、PCT出願であれば、日本出願から一年以内に、一先ず出願手続きのみ行っておき、残された国内移行期間に各国の市場動向や自社の海外戦略等の変化を踏まえながら移行国を決定することも可能です。
しかし、PCT出願には留意点もあります。例えば、PCT加盟国以外(例えば台湾等)で権利化を希望する場合、個別に直接出願をする必要があります。また、国内移行後の審査等に要する各国の印紙代及び現地代理人費用とは別に、PCT出願時に要する印紙代等がプラスでかかる点にも注意が必要です。場合によっては、各国へ直接出願するよりも多くの費用がかかってしまうこともあります。
最後に、PCT出願は上記の様な留意点もありますが、総じてメリットの多い制度です。海外展開を希望されている場合、一度弁理士に相談してみてはいかがでしょうか。中小企業向けの補助金や減免制度を利用できる場合もあります。どのような出願が適しているのか、補助金・減免制度は使えるのか等、弁理士は企業戦略も踏まえて一緒に検討させていただくことが可能です。