元号と商標制度~「令和」時代の新しい審査基準の運用~/弁理士 石田 正己
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2019年5月1日に新天皇がご即位されました。元号は「平成」から「令和」へと変わり、第126代天皇が誕生した時です。そして来る10月22日には、新天皇がご即位を内外に宣明される儀式である即位礼正殿の儀が執り行われます。このような中、4月1日の新元号の発表以来、新元号にあやかろうとしたビジネスが各方面で展開されています。そこで、現在の商標制度では元号をどのように扱っているかについて考察したいと思います。
今回の改元は、天皇の生前退位を契機とするものでしたので、改元に関する商標制度を整えるのに十分な期間がありました。そのため、新元号が発表される約2か月前、平成31年1月30日を施行日として商標審査基準の改訂が行われたのです。
商標法では、需要者が商標とは認識しないようなものは登録しないと規定しており(商標法第3条第1項第6号)、改訂前の商標審査基準では「平成」や「HEISEI」といった「現元号」がこれに該当するとされていました。この審査基準のまま元号が変わってしまうともはや「現元号」ではなくなった「平成」は登録可能と解釈できてしまうかもしれませんが、元号のようなパブリックドメインに対して特定人に独占権が生ずるのはやはり適切ではありません。そこで、今回の改訂により、過去のものも含めて単なる元号として認識されるにすぎないものは登録されないことになりました。これにより「平成」は勿論、これまで「現元号」ではないために登録されてきた「明治」や「大正」といった明治期以降の元号については登録が難しくなることでしょう。
ただし、新元号である「令和」は、「大化」から始まって248番目の元号です。その248の元号の中には一般的には元号とは認識されないであろう言葉も数多く存在しますので、全ての元号が商標登録できなくなったということではありません。例えば、「慶応」や「明和」などは単に元号としてしか認識されないものと言うべきか微妙なラインのように思います。
また、これまでも「平成薬局」のように全体で一つの商号を表すようなものや、「平成美人」のように全体で一つのまとまった意味合いを生じさせるようなものは、現元号を含むものであっても全体的な識別力が認められれば登録されてきました。今回の審査基準の改訂は、登録できない元号の対象を単に拡大しただけであるとは思いますが、現実的には他の言葉を結合した前記のような商標の登録性にも若干の影響を与えるケースが出てくるかもしれません。既に「令和」の元号を含む商標は120件以上出願されていますので、改訂審査基準の下での微妙な判断については、これらの審査経過をよく観察し検証していく必要がありそうです。