発明の課題は重要~知財の専門家として精進~
- 特許(発明)
突然ですが、発明において「課題」は重要です。令和1年度、「発明の課題が特許侵害訴訟に及ぼす影響」について研究する集団があります。それは、日本弁理士会、特許委員会の第2部会の第2チーム(以下「第2チーム」)です。
特許委員会とは、日本弁理士会に設置された専門委員会の1つであり、入会を希望した弁理士で構成されています。特許委員会では、6つのチームに分かれ、それぞれ設定した特許に関するテーマについて検討します。各チームのメンバーは、宿題をこなしつつ月に一度に集まって議論します。
話を戻しますと、発明の「課題」は、発明の目的・効果ともいえ、その発明が何を解決するのかを表します。例えば、ゴミの分別が面倒で困っている場合、それを解決する発明の課題(目的)は、ゴミの分別を楽にすることになります。このように発明には必ず課題があります。第2チームでは、この課題が、特許侵害訴訟の判決にどのように影響するのか、又は影響しないのかを近年の判例を複数読んで研究しました。
結論としては、発明の課題は、特許侵害訴訟の様々な場面で影響を及ぼしています。例えば、発明の課題を「ゴミを楽に分別する」と捉えるのと「空き缶とペットボトルとを精度良く分別する」と捉えるのでは、発明の射程範囲が異なります。燃えるゴミと資源ゴミとの分別は、前者であれば射程範囲内ですが、後者では射程範囲外です。同じ特許発明でも、課題の認定が鍵となり、地方裁判所と高等裁判所とで判決が逆転した例もあります。
裁判所では、例えば用語の解釈に争いがある場合等、発明の詳細な説明が記載された「明細書」の内容を考慮して、発明の本質、すなわち発明が実質的に解決した課題を認定します。裁判所は、その認定に基づいて、発明の射程範囲(正確には特許発明の技術的範囲)を定め、特許侵害の有無を判断します。このように裁判所は、出願時の明細書の記載を考慮して、適切な課題を認定しようとします。このため、明細書作成段階での課題への意識がとても重要になります。
なお、発明の課題が重要であることは、実務をしている弁理士の間では当然のことと推測できます。その中でも、実際の判決を「課題」に着目して検討することは、弁理士の実務に大いに役立つことと考えます。各チームの検討内容は、研修等を通じて他の弁理士に開示されます。知的財産の専門家として、弁理士は今年も精進していきます。
日本弁理士会 特許委員会 弁理士 瀧川 彰人