オンライン授業と著作権(コロナウイルスの感染拡大に伴う特例を含めて)
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1.オンライン授業
日本において2月以降のコロナウイルスの感染拡大に伴って、卒業旅行・卒業式の中止に留まらず、入学ガイダンス・入学式・授業についても、いわゆる3密を回避するために、eラーニングを用いた授業の実施が進められています。特に大学教育では、インターネットを通じて行われるeラーニングによって授業の多くが代替されつつあります。
eラーニングは、ICT(Information and Communication Technology。日本語では「情報通信技術」)を用いたインターネット・イントラネットに依るものが一般的ですが、iPad・アンドロイド携帯などのモバイル端末やコンピュータを利用したネットワーク向けのコンテンツの配信も行われています。eラーニングには、この他にも放送 大学のようにBS放送を利用する方式、CS放送を用いる方式、ラジオを用いた方式などが存在しています。各方式によって、関連する著作権の条文に違いがあるため、ここではコンピュータ・サーバーに記録されたコンテンツをオンデマンドでインターネットを経由して配信するウェブ配信型eラーニングを中心として解説します(以下、条 文は全て著作権法のものです)。
2.著作権との関係
著者が大学生であった40年近く前には、教授が指定した教科書や授業毎に配布されるプリントを利用した講義が一般的でした。その際には、論文や英語原書のコピーが配られて、教授による板書や予習してきた生徒の発表によって講義が進められる、というのが標準的な講義スタイルでした。20年程度前から、パワーポイントを使った講義が増加し始め、配布される資料もパワーポイントやPDF形式からのプリントアウトという講義となってきました。この程度のデジタル化であれば、第35条に定める「学校その他の教育機関における複製等」の制限内で実施できます。
eラーニングは、授業が教室内に留まらず、学校を越えて世界中どこからでもアクセスできる授業形態です。2018年に成立した改正著作権法によって、著作権者に対して相当な額の補償金を支払うことを条件として、インターネットを用いた遠隔授業が認められるようになりました。
但し、実際のeラーニングにおいては、著作物の許諾を得る必要があったり、授業教材を印刷物としてコピーしたり、インターネットを通じて利用したりする場合には、個別に許諾を得る必要がありました。上記の改正著作権法で、学校の設置者である学校法人などが指定管理団体に補償金を支払い、その団体が著作権者に資金分配する新 制度が導入されることになったものの、利用者と権利者との利害調整に手間取り、新制度の施行期日が決まっていない状態でした。
3.コロナウイルスの感染拡大に伴う特例
コロナウイルスの感染拡大によって、対面授業からeラーニングを用いた遠隔授業に切り替えるという、言わば超法規的な状況下において、文化庁などでは緊急避難措置として著作物の利用に格別の配慮を求める文書を著作権管理事業者に要請していました。また、いわゆる旧帝大では、4月中に正規の手続きで利用が可能になるようにし て欲しいとの要望が提出されました。これらの要望を受けて、政府は制度の施行を前倒しし、2020年4月28日からスタートさせる政令を閣議決定しました。これによって、大学などのオンラインによる遠隔授業で著作物を使用するときには、個別の許諾を得る必要がなくなり、著作物の円滑な利用が可能となります。
また、2020年度に限って、特例として補償金額を無償とすることが管理協会で決定されています。但し、2021年度以降は有償になる見込です。そうすると、本年2月から製作されているオンライン授業教材について、次年度以降は補償金が発生し得ることから、次年度以降に教材を差し替える必要もありそうです(なお、eラーニング教 材中に第三者の著作物を利用していなければ、著作権法上の問題は生じません)。
eラーニング用教材を作成した者であれば、多くの場合に第三者の著作物を利用することで、有用なものとなることは容易に理解できます。コロナウイルスの感染拡大によるeラーニングの本格的な実施を考えると、第35条の枠組みを超えた普及方法を考慮する時期に来ているのかも知れません。
弁理士 小林 洋平