利用発明~自分の特許が使えない?どうすれば・・・~/弁理士 奥田 誠
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(株)マルスガのスガ社長は、1年前、空気中の汚れ物質を検知する「汚れ物質センサー」について、より正確に検知できる新たな改良発明を、東海太郎弁理士を通じて特許出願しました。特許庁の早期審査を経て、先月、登録査定が届いたので、直ぐに特許庁に特許料を納付しました。
スガ社長(以下、スガ):東海さん、もうすぐ「汚れ物質センサー」は特許登録されますよね!
東海弁理士(以下、東海):特許料を先月に納付したので、まもなくですよ。登録されたら特許証が送られてきますので、お届けしますね。
スガ:X社の「汚れ物質センサー」より性能が良いから、もう幾つか商談もあるんですよ。
東海:良かったですねぇ。確か、X社が「汚れ物質センサー」の基本特許を持っているので出願前に検討して、X社の改良版の実施形態1のセンサーだけで無く、X社の特許を回避した実施形態2のセンサーも含む内容にしましたよね。販売するセンサーは、X社の特許に抵触しない実施形態2の構造にしないとダメですよ。
スガ:えーっ。せっかく特許が取れたのに、X社のセンサーと互換性の高い実施形態1のセンサーは売れないんですか? ウチは「汚れ物質センサー」の特許が取れたから、X社の特許なんて関係無いのでは?
東海:自社の特許があるから、他社の特許は無視して良いということにはならないですよ。1つの製品に幾つもの特許権が重なって成立することは良くあります。実施形態1のセンサーは、貴社の改良発明だけでなく、X社の特許発明も使っているので、X社の基本特許が生きている間はX社の許諾が必要です。X社の特許権満了まで、あと3年ガマンして下さい。
スガ:自分の特許があるのに、使えない場合が有るってことですね。
東海:そうです。但し、X社も貴社の改良発明は使えないので、両社とも実施形態1のセンサーは売れないです。でも3年後には貴社だけ売れるようになりますからね。
スガ:つまり、ウチは、実施形態2のセンサーだけ売って3年ガマンすれば、実施形態1のセンサーも売れるようになる。一方、ウチの改良特許が使えないX社は、古いタイプのセンサーしか販売できなくなるということですよね。立場逆転ですね。
東海:すぐにでも実施形態1のセンサーを売りたいなら、X社と協議して相互に特許権を許諾し合う、いわゆる「クロスライセンス」を結ぶ手も有りますよ。でも、X社も実施形態1のセンサーを売れることになるので、考えどころですね。