新市場創造型標準化制度について/弁理士 石原 五郎
新聞掲載記事- 特許(発明)
- 戦略/活用
「自社製品には自信があるのに、製品が思うように売れない…。何かいい方法はないの?」といった悩みを抱えられている企業は意外と多いのではないでしょうか。
特に、日本の中小企業は、技術力が高く、様々な独自技術により素晴らしい製品を生み出している一方で、資金力・マーケティング不足等の要因により、製品の売り込みが上手くいかないといった課題を抱えている場合があると思います。例えば、自社製品の方が他社製品と比べて性能や品質が優れているのに、その良さが顧客に思うように伝わらず、展示会等でアピールしても売上が伸びない、といった声をよく耳にします。
このような課題を抱える中小企業において、自社製品に関する自社技術の“標準化”を図り、自社製品の性能や品質を際立たせる規格を主導的に制定し、自らが市場のルール形成に携わることで、自社製品の優位性や信頼性を顧客にアピールし易くしつつ売上向上を図る、というビジネス戦略があります。
ここで、“標準化”とは、統一化・単純化を図る目的で、モノやサービスについて定めた取り決め(ルール形成)を図ること、即ち、JIS規格等を制定することです。
「一企業(特に中小企業)での規格制定なんて無理では?」と思うかもしれませんが、実は2023年現在、一企業からの提案をもとに新規の原案作成委員会等の立ち上げを後押しする「新市場創造型標準化制度」という経済産業省の施策があり、その支援事業を各地方経産局が行っています。この支援事業では、日本規格協会(JSA)や各地方経産局、弁理士等により支援が行われ、その結果、「新市場創造型標準化制度」を活用することで、中小企業であっても自社製品に関するJIS規格等を制定することが可能となっています。
この際に重要となるのが、自社製品に関する自社技術の“標準化”を図る前に、自社製品の「オープンクローズ戦略」をしっかりと検討しながら“標準化”を目指すことです。というのも、自社技術に関する規格が制定された場合、“標準化”により市場への新規参入が増え得る(オープンになる)ため、規格制定前の段階より多くの競合他社が参入してくる可能性があります。
このような場合に、新規参入してきた競合他社に市場を奪われないようにするためには、自社技術の優位性の素となる“コア技術”を模倣されないようにする戦略、即ち、“標準化”(オープン戦略)した場合でも競合他社が自社製品と同等の製品を作ることができないように、“コア技術”をノウハウや知的財産権で保護しておく「オープンクローズ戦略」を事前に練っておくことが重要です。
具体的には、例えば、自社製品の「製法」については特許権を取得し、自社製品の性能の「評価方法」や「性能値」については“標準化”し、自社製品の優位性を創出し得る細かな「割合(ex.混合度合い等のパラメータ)」についてはノウハウで守るような状況にすることができれば、“標準化”によって自社製品の信頼性向上や品質の可視化による市場規模の拡大を図りつつ、その拡大した市場の中で知的財産権やノウハウによって他社の模倣を防止することで、自社製品の市場におけるシェアを長期に亘って維持することが可能となります。
“標準”関連業務は、弁理士の標榜業務の一つです。技術や知的財産権のみならず“標準”に明るい弁理士であれば、「オープンクローズ戦略」をうまく練り上げながら、自社製品のビジネスに資する“標準化”を提案することができます。
ご興味のある方は、是非、お近くの弁理士又は地方経産局にご相談ください。