産学連携における知的財産活動について/弁理士 杉田 一直
新聞掲載記事- 特許(発明)
今年も、特許行政年次報告書2023年度版が発刊されました。直近の10年間に着目すると、特許出願件数は減少傾向となっていますが、一方で、企業の研究開発費は増加傾向にあります。研究開発費の増加に伴って特許出願件数は増加するのではないかと思っておりましたが、現実はそのようになっていませんでした。この現象は、市場ニーズが多様化し、内外での技術競争が強まる環境下で、製品開発のコストが上昇していることも一因であると考えられます。
このような状況下で、研究開発の成果を早期にかつ着実に事業化につなげるための対策の一つとして、産学連携によるオープンイノベーションへの期待が高まっています。言い換えれば、産学連携活動や大学の知的財産活動が、産業のイノベーションの創出に重要な役割を果たしているといえます。
イノベーションの創出を目指して、大学が社会に価値を提供するための方策は、種々ありますが、企業との共同研究、企業への知的財産権の譲渡・ライセンスなどが考えられます。表に、「民間企業からの研究資金等受入金額」・「特許権等実施件数」・「特許権実施等収入」の過去6年間の推移をまとめました。なお、「特許権実施等件数」は「実施許諾及び譲渡の件数」を意味します。2021年度の「民間企業からの研究資金等受け入れ金額」は127,765百万円であり、2016年度対比で約1.5倍、2021年度の「特許権等実施件数」は、21,959件であり、2016年度対比で約1.6倍、2021年度の「特許権実施等収入」は3,965百万円であり、2016年度対比で約1.5倍となっています。
これらの定量的な指標の推移から判断すると、産学連携における知的財産活動は近年急速に進展していると推察できます。
近年の産学連携における知的財産活動の急速な進展は、TLO(技術移転機関)が需要な役割を果たしていると考えられます。TLOは、いわゆる産と学の「仲介役」の役割を果たす機関であり、いわば産学連携の中核をなす組織といえます。TLOは1998年に4機関が初めて承認されましたが、年を追うごとに増加し、2023年には32機関が承認されています。TLOの承認数の増加からも、産学連携活動や大学の知財活動の活発化が見て取れます。
特許庁においても、イノベーション創出に向けて、スタートアップ・大学・中小企業等の知財活動を重点的に支援するためにの令和5年度の予算として15.9億円(対前年度比+28.2%)が計上されています。2023年度の予算額の増加からも、産学連携活動や大学の知的財産権活動を特許庁として重点的に支援する姿勢が伺えます。