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審査実務~審査官に伺う審査のお仕事~

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  • 権利取得

 特許出願をすると、特許庁で審査が行われた後、特許権を取得することができます。この審査を行っているのが特許審査官です。今回は、経験豊富な八木審査官と、若手の五十嵐審査官のお二人に、お話を伺いました。

(八木)八木智規です。平成22年入庁で入庁14年目(2024年2月時)です。審査実務の経験は実質10年弱です。今は光デバイス分野を担当しています。よろしくお願いします。

(五十嵐)五十嵐公輔です。平成31年入庁で現在5年目(2024年2月時)です。冷却機器分野を担当しています。よろしくお願いします。


(弁理士、以下、弁)八木さんの担当される光デバイスは非常に技術範囲が広いのですが、なかなか理解しづらい出願があった場合、どのように対応されていますか。

(八木)まずインターネットや書籍等を調べます。また、同じ出願人の過去の出願を調べます。このようにして、技術について知識を得て審査に取り組んでいます。それでもわからない場合は、ベテランの方に教えてもらいます。技術を理解しないまま拒絶理由通知を作成することはありません。

(五十嵐)私は審査官に昇任して間もないので、理解が難しい案件については積極的に周りの審査官と協議を行うように、特に心がけています。審査室の中には協議スペースが設けられており、多くの審査官が活発に議論を行っています。最終的に判断を行うのは自分ですが、周りの審査官の意見も取り入れながら、慎重に判断を行うようにしています。


(弁)審査の質を保つため研修等の取組はありますか。

(五十嵐)語学研修、法律研修等があります。審査官が企業の研究開発部署等に派遣され、そこで業務を行う専門技術実習もあります。私も専門技術実習として1ヵ月間企業の研究開発部署に派遣され、特許審査に有用な技術的知見を深めることができました。他にも、定期的に審査、実務に関する様々な知識が問われる品質テストが実施されています。

(八木)ほかに、審査官が作成した書類を、出願人に発送する前にサンプリングし、品質管理官がチェックを行っています。品質管理官がその案件の審査内容の論理構成を確認し、審査官にフィードバックします。もし不備が見つかった場合は、差戻され、不備の内容を修正し、再度管理職の決裁を経て発送します。


(弁)お二人が審査において心がけていらっしゃることはありますか?

(八木)出願人に納得していただける論理構成をしっかり考えてそれが伝わるように書類を起案することを心がけています。素晴らしい論理構成ができたとしても出願人に伝わらなければ何の意味もありません。出願人にも伝わる言葉で起案する事を心がけています。

(五十嵐)私も審査官と出願人側との間で、意見のすれ違いが起きないように丁寧に意思の疎通を図ることを心がけています。特許の判断においては、専門的な技術や、法律に関する知識が求められるため、判断のプロセスが複雑になります。そういった時にも、出願人側の意見をよく理解して、審査官がなぜそのような判断に至ったかを、互いに納得できる形で落とし込めるように丁寧に伝えることを意識しています。


(弁)審査官の仕事をされている中で、どのようなことにやりがいを感じますか。

(五十嵐)自分の行った審査の結果が、出願人の事業を活性化させるための要因になって、産業の発達に貢献できるところは非常に大きなやりがいの1つです。特許権は独占権という非常に強い権利ですので、出願人にとっても第三者にとっても納得のできる結論になるように慎重に判断を行っています。自分が審査に関わった権利をもとに起業されたりだとか、企業の経営方針に影響を与えたりとその世の中に与える影響が大きいため、非常に大きな責任感を感じているとともにやりがいを感じています

(八木)特許審査というものは、基本的には審査官が最終的に特許査定なり、拒絶査定なりという判断を下します。特許権は非常に強力な権利です。そういった強力な、出願人にとって非常に重要な権利に対して、それを最終的に特許するか、拒絶するかというものを自分の判断で下す。自分がそのような仕事をしていることに対して、責任の大きさを痛感するとともに、やりがいを感じています。


(弁)出願人が大企業の出願人である場合、零細企業とか個人の出願人である場合、さらには個人出願人で代理人がいない場合で、審査の対応が変わってきますか。

(八木)例えば、個人の場合は、代理人はほぼいないでしょうし、出願も慣れてらっしゃらない場合が多いと推測できます。そこで、個人の場合は、私は特に丁寧に起案を書くようにしています。あと補正の示唆をつける頻度が高いかもしれません。どういうふうにしたら特許になりうるのかという見解や、審査官はこう思っていますというのが、伝わるように心がけています。

(五十嵐)審査の基準、審査の仕方に違いはありませんが、審査官の意図をどこまで記載するかという点には違いがあると思います。大企業の出願人は審査官とのやりとりに慣れているので、審査官の意図が伝わるのに十分な文章を記載すれば、不必要な補正の示唆等までは行わず、出願人の裁量で補正が自由に行えるように特に意識します。一方、個人の出願人に対しては、意見のすれ違いが起きないようにすることを特に意識して、大企業の出願人には記載しないような点まで記載するという違いは確かにあります。


(弁)出願人によって進歩性のハードルを上げ下げする事は、あまりない?

(八木)全くないです。


(弁)審査官の一人当たりの処理件数の目標値はあるのでしょうか?

(五十嵐)月ごと、半期ごと、1年ごとの目標は決まっています。出願の種類に応じて一定の数値が設定されており、処理した案件に付されていた数値の合計値に対して目標が設定されています。


(弁)働き方について質問いたします。テレワークされることもあるかと思いますが、テレワークの日数、登庁する日数はどのようになっていますか。 

(八木)現在、審査官は原則週2回以内のテレワークとなっています。情報セキュリティの取り決めにより、案件によっては、登庁して、特許庁の中でなければできない仕事もあります。そのような場合には、多めに登庁するという状態です。私は週4日登庁、1日テレワークです。

(五十嵐)私の場合、テレワークの頻度はおおよそ月に1、2回程度です。登庁することによって、対面で他の審査官と相談できたり、庁内の検索システムを利用できたり等の一定のメリットがあるので、積極的に登庁しています。


(弁)テレワーク時の勤務時間は、登庁時の勤務時間と同じ時間に設定されていますか。

(八木)私は、登庁時もテレワーク時も同じに設定しています。

(五十嵐)私も同じにしています。


(弁)特許庁の中のどこかの部署がフリーアドレスを始めたと伺っていますが。

(五十嵐)私の部署はフリーアドレスです。2023年度内には、特許審査部の全ての部署でフリーアドレスになると聞いています。フリーアドレスによって、職務を行う座席が日々変わるため、導入前と比較して、多くの職員とのコミュニケーションがとりやすくなり、職務をより円滑に行えていると思います。また、退庁する際には、その日に使用した座席を、次の人のために綺麗に片付けるため、審査室全体が、以前より整理整頓されている印象です。


(弁)我々からの質問は以上になります。本日は有難うございました。

(八木、五十嵐)こちらこそ有難うございました。
<収録日:2024年2月8日>


左:八木審査官、右:五十嵐審査官


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