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インド特許侵害訴訟の実情~インド知財訴訟改革~/国際知財委員会 弁理士 矢代 加奈子

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 今や中国を抜いて世界第1位の人口を有する国、インド。国連の発表によると、インドの人口は14億2,860万人を超えており、実に世界人口の約17.8%がインド人ということになります。また、2023年度のGDP成長率は8%を超え、名目GDP(国内総生産)は2025年に日本を上回る見通しとなるなど、高い経済成長を記録しています。このような背景とインド政府の積極的な政策により、インドは日本企業の海外進出先として高い人気を集めています。

 愛知県は、2016年に「インド愛知デスク」を開設し、インドに進出する愛知県企業に対する支援を行っております。日本弁理士会東海会は、今年1月にデリーで行われたインド愛知デスク主催の意見交換会に参加し、この地域のインド進出企業の方と意見交換を行って参りました。知財に関心のある方も多く、特に知財訴訟についてわからない点が多いとのことでした。そこで、近年のインド知財訴訟改革を踏まえ、インドで知財訴訟を提起する場合の留意事項をまとめてみました。

特許侵害訴訟は、デリー高裁一択!
 インドでは、特許権等の侵害行為を発見した場合、迅速な訴訟提訴の決断が重要であると考えられています。それでは、知財の侵害訴訟は、どこの裁判所に提起すればよいでしょうか?答えはデリー高等裁判所の一択です。
 訴訟を提起する場合、裁判管轄というものがあり、どこの裁判所でも提起できるわけではありません。主に侵害が発生している地域や、被告の所在地等の地方裁判所を選択できますが、一部の高等裁判所は第一審管轄権を有しておりますので、一定の要件を満たせば第一審から高等裁判所に提起することができます。インドの24の高等裁判所のうち、デリー高等裁判所、ボンベイ(ムンバイ)高等裁判所など、5つの高等裁判所で特許侵害訴訟を提起することができます。また、地方裁判所に提起した場合、特許侵害訴訟においては、被告が特許無効の抗弁をした時点で地方裁判所の管轄は終了し、侵害訴訟は自動的にデリー高等裁判所に移送されます。特許無効の抗弁は、被告がとる最も一般的な抗弁ですので、特許侵害訴訟をデリー以外の地方裁判所に提起することはお勧めしない、というのが現地代理人の一般的な見解です。

インド知財訴訟改革
 2021年4月に施行された審判所改革令により、知的財産審判委員会(IPAB)は廃止されました。IPABは、特許庁及び商標審査官の決定に対する審判を審理するための機関として2003年に設立されましたが、政府は限られた予算の中で審判官を任命するのが難しくなり、審判官の定員が埋まらない状況が続くなど十分に機能していなかったことから、機能強化及び合理化を目的とした司法改革の一環として廃止されました。IPABの廃止に伴い、IPABに継続中の知的財産事件は、IPABの支所が所在していたデリー、ムンバイ、コルカタなど、5つの高等裁判所に移管されることになりました。また、2022年にデリー高等裁判所に知的財産部が設置され、2023年にマドラス高等裁判所、近いうちにコルカタ高等裁判所にも知的財産部が設置される予定です。

訴訟提訴後の証拠保全
 訴訟提起後に権利者が行うことは、特許権等の侵害の証拠集め及び証拠の保全です。インドでは、アントンピラー命令と呼ばれる制度があり、原告が有力な疎明証拠を提出し、被告に不利な証拠があることを証明すれば、仮処分を求める際に、弁護士委員や特別公務員の選任を申請することができます。この弁護士委員は、被告を訪問し、被告が管理する場所から証拠を収集することができます。

権利者の強い味方、仮差止命令
 インドの訴訟制度には、仮差止命令という、原告の主張を聞いて迅速に仮差止を命じる、権利者にとっては非常に有効かつ必要不可欠な手段があります。この仮差止命令は、大部分の特許侵害訴訟において申し立てられており、デリー高裁は積極的に認めると言われています。仮差止命令の利点として、比較的短期間で判断を得られること、及び仮差止において権利者に有利な判断がされたことにより、和解に至る可能性が高くなるなどが挙げられます。

 ひと昔前まではインドの知財訴訟は判決が出るまでに20年以上かかると言われておりましたが、近年では様々な改革が行われた結果、デリー高裁に知的財産部が設置された後の侵害訴訟における所要時間は、平均1~3年程度にまで短縮されています。弁理士は、国内の知財に関する問題だけではなく、外国での知財紛争に関してもご協力が可能ですので、ご不明な点がありましたらご相談下さい。


デリー特許庁 

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