知財訴訟(訴えられたら、訴えたら)/弁護士・弁理士 早瀬 久雄
新聞掲載記事- 契約/紛争
◆知財訴訟とは
特許権、商標権、著作権等の知的財産権に関するトラブルが発生した場合、当事者の話し合いで解決できなければ、解決のための場所は交渉から裁判所に移ります。調停という裁判所を介した話し合いの選択も考えられますが、主張が真っ向対立する場合、知的財産の権利者としては訴訟を選択せざるを得ません。訴訟において、訴える側である権利者は、相手方に対し、自らの権利を侵害していると主張し、商品販売の中止(差止め)を求めたり、過去の商品販売に対する損害賠償を請求したりします。これに対し、訴えられた側は、訴えを無視すれば欠席判決として権利者の主張が認められてしまうため、訴訟の場に出て、自己の主張を展開し、反論していくことになります。
一般的な知財訴訟において争われるポイントは、大きくは、権利を侵害しているかどうかという点、権利はそもそも有効なのかという点、権利を侵害しているという判断を前提に、差止め請求を認める必要性があるか、また、損害賠償の金額をいくらにするかという点です。その他にも、例えば特許権や商標権等に関する訴訟であれば、相手の方が先に使っていたという反論が成り立つかどうかが争われることもあり、争いの内容は多岐にわたります。
◆知財訴訟の現況
裁判所の統計によると、このような知財訴訟が第1審裁判所に提起されるのは、年間500件~600件です。医療訴訟の件数も年間約600件ですから、それと同じくらいの件数の知財訴訟があります。そして、これも統計によれば、第1審における1件あたりの平均審理期間は12か月~15か月であり、最初の結論が出るまでに1年ちょっとかかります。また、特許訴訟に限っていえば、原告となる権利者、その相手方、ともに中小企業が半数近くを占めているという統計があるので、特許訴訟は決して大企業に限った話ではありません。
次に、訴え提起の結果がどうなったかを統計から見てみると、特許権に関する訴訟に限ったデータですが、約7割が判決で終了し、残りは和解で終了しています。判決となったもののうち、侵害と認定されたのは3割、残り7割は侵害と認定されずに終わっています。一見すると、少し権利者の側に厳しい結果といえます。ただ、和解で終了する場合もありますので、判決で侵害認定された件数に、金銭や販売行為の差止め等の権利者が一定の利益が得られた和解の件数を加えると、訴え全体の件数に対して45%くらいになります。この数字からすると、権利者が訴えを提起した場合、約2分の1の確率で一定の成果が得られています。
◆訴えが認められた場合の損害賠償の金額
仮に侵害が認められた場合、認められる損害額はどのくらいになるのでしょうか。その算出は、法律に定められた方法にしたがって行われます。大きく分けると、「侵害者が販売した数量×権利者の単位数量あたりの利益」で算出する場合、侵害者が得た利益を算出する場合、ライセンス料相当額を算出する場合の3つの算出方法があります。ここでいう利益は、粗利ではなく、そこからさらに変動費を控除した限界利益とされています。人件費等の固定費や一般管理費は控除されません。裁判所の統計(図参照)によると、1000万円以上の高額な賠償が認められたケースが多いことがわかります。もちろん、商品の販売数や価格等の要素によって金額は異なるため、一概には言えませんが、権利侵害と認定された場合の負担は少なくなくありません。一方、権利者の側から見れば、権利侵害が認められれば(ここはひとつのハードルですが)、少なくない賠償額が得られる可能性があります。自社で商品を企画販売する場合、日頃から知財には関心を持ち、知財で自社商品を守る、開発時には他社の知財を意識することが必要です。