知的財産には紛争が付きもの~日本知的財産仲裁センターについて~
新聞掲載記事- 契約/紛争
- 弁理士会
知的財産権は取得すればそれでよしというものではありません。ある製品がある特許権に抵触するのかしないのかについても、立場が違えば見方も違ってくるものです。商標権など他の種類の知的財産権でも同様です。そのため権利者と他者との間で紛争が起きることがあります。
日本知的財産仲裁センターは、そのような紛争を解決するための場です。当センターは、日本弁理士会と日本弁護士連合会との共同により設立されたADR(裁判外の紛争解決手段)機関であり、法務省の認証を受けています。
このため当センターの仲裁手続・調停手続を利用することにより時効中断効が認められます。また、当センターの仲裁手続により、強制執行も可能となります。
当センターの利点は、秘密を保持したまま紛争の解決を図ることができる、という点です。裁判とは異なり、当センターの手続は非公開だからです。また裁判に比べて短期間で結論に至ることや、隔地者間の紛争についても利用可能なことも挙げられます。ただ、ADRの利用自体について両当事者の同意(応諾)が必要となります。ADRは、海外では日本以上に盛んに利用されており、日本でもさらなる利用の拡大が期待されています。
〇センター判定について
センター判定は、特許権、実用新案権、意匠権、商標権に関して、特定された対象物が特定の権利に抵触するか否かについての判定人による見解を示す手続です。特許庁による判定(特許法第71条等)と区別するために「センター判定」と称しています。
センター判定の種類としては、範囲判定と無効判定とがあります。範囲判定とは、対象物が権利範囲に属するか否かの判定です。特許権の場合であれば対象の特許の「請求項」の技術的範囲と対象物との関係が争点となります。無効判定とは、対象の権利の有効性についての判定です。特許権の場合であれば例えば、審査で発見されなかった先行技術により特許発明の新規性・進歩性が否定されるか否かが争点となります。
手続を利用するのは、単独でも(単独判定)、紛争当事者双方でも(双方判定)可能です。
単独判定では、相手方の意見を聞くことなく申立人側の提出資料のみに基づいて判定を行います。権利者、実施者のどちらからでも申立して頂けます。相手方に知られることなく判定結果を知ることができるという点で大きなメリットがあります。
双方判定では、申立人、相手方、双方の提出資料に基づいて判定を行います。
上記の無効判定や単独判定についても規定が整備されていることが、当センターの特徴となっています。判定人には、当センターの判定人候補者名簿から弁護士と弁理士とが一名ずつ選任されます。秘密は厳守されます。
〇センター判定の利点
センター判定は、その結論に法的拘束力がある訳ではありません(この点は特許庁の判定でも同じ)が、利害関係のない専門家による客観的な見解が得られます。さらにセンター判定の場合には特許庁の判定と異なり、申立をした事実自体が秘密として保持されます。
このため紛争解決の手段としてはもちろん、事業の方針決定のための内部検討での客観的な資料としてセンター判定の結論を利用することもできます。例えば、中小企業が新製品を事業化してよいかどうか検討している場面で、近い内容の他社の特許権の存在に気づいたとします。このような場合に特に上記の単独判定を有効に活用できます。
当センターの取り扱い業務には、上記のセンター判定の他にも、仲裁、調停、相談、JPドメイン名紛争処理、事業適合性判定など多様な種類があります。ぜひご利用ください。詳細は当センターウェブサイトを参照ください。
日本知的財産仲裁センター名古屋支部
弁理士 岡戸 昭佳