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中小企業の立場からのタイ現地事務所への質問

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1.背景

 今後10年でASEANは世界をけん引する大きな市場になると言われています。その中でタイは、政治的混乱をものともせず急速に発展して中進国としての地歩を固めつつあり、近年ではThailand4.0の下でEEC(東部経済回廊)に高度先進技術の集積を図ろうとしています。このようなタイにはビジネスチャンスを求めて、日本の中小企業の進出や現地での起業が今まで以上に旺盛に行われると予想されます。

 ところで、中小企業をお客様とした場合、我々日本の特許事務所と現地事務所との関係も今までのような一方的な出願依頼から、より緊密な連携と情報交換を行うように変化していくと思われます。以下はその先鞭として、筆者が日頃感じている疑問を、親しい現地事務所(Rouse & Co International (Thailand) Limited 所長Manoon Changchumni)に投げかけて得た回答の一例です。なお、紙面の字数の関係上、質問・回答のいずれも実際のものより短縮要約してあります。


2.質問と回答

 Q.1

 今後日本の中小企業からタイの中小企業へのライセンス契約が増加すると思われるが、契約違反に対してはタイ民法等によって救済が図られるものの、そのような事態になると中小企業にとっては負担が大きい。信頼のおけるパートナーはどうすれば見つけられるか?

 A.1

 ①相手先についての、例えばビジネス戦略・製品や技術動向・研究開発活動・取得済みの知財等の情報をできる限り広範囲に収集する。

 ②契約内容について良く吟味する。

 ③タイの法律を熟知している現地事務所からきちんとアドバイスを受ける。


 Q.2

 タイの特許データベースは信頼性の点で難がある。攻撃は最大の防御という観点から言えば、出願して早期の権利化を図るのが良策だと思われる。この点で日-タイPPH(特許審査ハイウェイ)は有用だと思うがどうか?

 A.2

 PPHは審査促進・早期権利化の点で有用だと思う。PPHであればファーストアクションが審査請求から通常1-2年のところ、6-8か月で出る。

 筆者注:日本で早期審査をかけ拒絶理由を受けることなく特許になった案件をタイに出願した弊所の案件では、タイ出願から2年2か月で登録されている。タイでは出願公開後にしか審査請求ができず、しかも公開時期が定まっていない。本件では現地代理人を通してタイ特許庁(DIP)にPPHを使用する意思があることを伝え、出願後1年4か月で公開されたので即座に審査請求を行った)。


 Q.3

 小特許(タイの実用新案)についてのタイ最高裁の判例を5件ほど調べた限りでは(パテント誌2016Vol.69 No.9の筆者論文)請求の範囲についての解釈が全くなされていなかった。これからすると、タイには単純な請求の範囲の、簡単な発明しか出願を薦められないことになるがどうか?あるいは代理人の主張の仕方によるのか?

 A.3

 タイでは代理人が請求の範囲についての解釈を提出しないことがあり、そうすると裁判官は提出された証拠のみに基づいて侵害・非侵害を認定する(筆者注:明細書の実施例と実際の侵害品との対比、あるいは盗用の有無等)。したがって発明内容の説明および請求の範囲の解釈を提出する用意があることを審理開始時に裁判官に明確に伝えるように、現地代理人に指示すべきである。


 Q.4

 日本企業と現地企業との間の紛争解決ではシンガポール等での国際仲裁が採用される傾向にあるが、タイ特許庁(DIP)や知財裁判所(CIPITC)での調停は中小企業にとって有用か?

 A.4

 DIPやCIPITCでの調停は最近タイでは大いに推奨されつつある。裁判に較べて時間とコストの負担が小さいからである。いずれの調停もライセンスやロイヤリティ等知財に関係するあらゆる紛争を扱う。

 特にDIPにおける調停はオフィシャルフィーが要らない。そして調停が不調で当事者が同意すればDIPにおける仲裁に進むことができる。また、調停によって相手の出方を探ることができ、裁判に持ち込むか否かの判断をより的確に行うことができるという効果もある。

弁理士 守田 賢一

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