日本弁理士会東海会 村瀬裕昭会長に聞く
- 弁理士会
日本弁理士会東海会の2023年度会長に、村瀬裕昭氏(弁理士法人快友国際特許事務所)が就任した。東海会は愛知、岐阜、三重、静岡、長野の5県の弁理士で組織し、産業界の知財の活用に貢献する。村瀬会長は「ポストコロナに向けて活動を強化していく」と、中小企業、スタートアップの支援や教育機関への講師派遣、農業分野の知財戦略などに力を入れる方針だ。
ー就任の抱負を。
「コロナ禍によりこの3年間は活動に制限があったが、感染症法上の分類が5月に2類相当から5類へ引き下げられるなど、ポストコロナに向けて、行政、企業、個人が動き出している。弁理士会の活動の基本は知的財産権の重要性について広く一般に知ってもらうことで、我々もポストコロナの時代に向けて取り組みを一段と強化していく。なかでも、中小企業、スタートアップをはじめ、産業活動に携わっている人たちを積極的にサポートしていきたい」
ー中小企業、スタートアップの支援について。
「大手企業との連携も力を入れるが、東海会所属の2、3割が大手企業などに所属し企業内で活動する弁理士であるなど、大手企業は自社で対応できる面がある。これに対し、中小、スタートアップは技術開発をすると早く市場に製品やサービスを出したいと焦り、知財戦略を後回しにする事例が跡を絶たない。これでは、ビジネスが守られない」
ー具体的にどういうことですか。
「ビジネスを展開してからでは特許を取りにくい。新規性喪失の例外適用はあるが、制限される。ビジネスを順調に成長させるには、開発と並行して特許、商標、意匠の知財戦略を考えるのが望ましい。また、第3者との共同研究の場合は、秘密保持契約や共同開発契約を結ぶこと。ここをしっかり押さえていけば、共同開発の成果物を互いに納得して活用できる。大手と中小が共同開発する場合、中小は大手と比べ、知識の差があり注意したい。私たちが多岐にわたりサポートしていきたい」
「知財の海外戦略も初期段階から検討しておきたい。市場は事業の成長とともに、国内だけでなく海外にも広がる。ただし、知財の海外戦略は費用もかかるので、費用対効果をみながら戦略を構築していただきたい」
ー弁理士を大学や高校に派遣するなど、教育支援にも取り組んでいますね。
「中小企業、スタートアップへのサポートに対し、将来を担う若者に知財の知識を習得してもらうのは、すぐには効果がでないが、長期的な視野で経済振興に貢献するもの。コロナ禍も落ち着き、派遣要請が増えてくるだろうが、積極的に応えたい。これまでの事例として、名古屋市立大学で連続講義を受け持ち、知財の基本知識を一通り紹介している。高校では工業高校への派遣が多い。小学校、中学校へも出向いており、”ちょっとしたアイディアで特許が取れる”と語りかけると、子供たちは目を輝かせて聞いている」
ー農業分野の知財も課題になっている。
「第一次産業では知財戦略があまりなかったが、アグリテックが発達するなど、農業分野でも重要になっている。また、日本国内で開発した品種の権利も守っていかねばならない。農業従事者に絞って知財のセミナーを開催するなど、まずは知財の基本を知ってもらいたい。日本の農業が成長するためにも、知財戦略が大切だ」