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知財ミックスで植物品種を守る~商標と一緒に海外出願を~/知財周辺法委員会 弁理士 丸山 修

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 NHKの朝ドラの「らんまん」が佳境を迎えています。でも今日は、自然採種の植物ではなく、農産物の生産のために栽培される植物の品種の話です。シャインマスカットの美味しさは誰でも知っています。でもシャインマスカットが交配を始めてから30年以上もかかって品種登録されたことは知られていません。

■品種登録
 種苗法による新品種の審査は、①他の品種と形状、色、耐病性などの重要な形質で明確に区別できること、②まいた種などから同じものができること、③何世代増殖を繰り返しても同じものができることが審査されます。工業製品を扱う特許とは異なり、種苗法は植物体が保護対象ですので、時間がかかります。
 長い時間をかけて開発した日本の優良品種が海外に持ち出され、日本をはるかに凌ぐ面積で生産されています。イチゴの栽培面積は、日本の5千200万平方メートルに対し、中国は「紅ほっぺ」だけで4億4千万平方メートルと言われます(改正種苗法について~法改正の概要と留意点~、農林資産省、令和4年3月)。日本のイチゴは世界でも評価が高く、財務省「貿易統計」によると2017年の輸出額は約18億円と伸びていますが、海外流出による潜在的な損失はその数倍にも上ります。過去には自家増殖を行っていた農業者から登録品種が海外へ流出した事例もあったようです。

■20年改正種苗法
 国は20年の種苗法改正で、品種登録を受けた育成者権者が、種苗の適切な流通管理をできるようにしました。具体的には、育成者権者が、輸出先国を指定し、種苗を「指定国」以外に輸出することを制限できるようにし、また、国内の地域を指定し、「指定地域」以外での収穫物の生産を制限できるようにしました。更に、農業者による自家増殖にも育成者権が及ぶようにしました。
 また、育成者権を活用しやすくするための措置として、侵害の把握を登録品種との比較栽培から、品種登録簿に記載された特性表を活用して、特性表の記述から明確に区別できない品種は侵害と推定することとしました。特許権の侵害の認定に少し近づいた感がします。また、育成者権者が、比較植物の特性を把握し、侵害と確認することは簡単ではないことから、農林水産大臣が侵害の判定を行う判定制度が創設されました。これも特許権の判定制度に似ています。

■海外への品種登録
 このように活用しやすくなった育成者権ですが、国内の品種登録出願件数は、伸び悩んでいます。11年には793件であったのが、21年には474件にまで減っています。一方、世界を見ると、欧州2609件、中国は、11年は829件でしたが、21年には1万539件と日本の22倍になっています(国内外における品種保護をめぐる情勢、農林水産省、令和4年12月)。日本の新品種開発は、公的機関が4分の1を占めますが、開発費用を育成者権から回収する仕組みが必要かもしれません。一方で海外への出願は、優良品種保護の観点から国の補助制度もあって伸びています。海外出願は、海外の特許事務所に依頼しますが、弁理士は普段から海外の特許事務所と仕事をしていますので、気軽に相談いただけます。
 「夕張メロン」は、内閣府の「地域の経済2017」によると、他のメロンに比べブランド価値は年額3・6億円程度になります。農林水産物の付加価値は、育成者権のみならず他の知的財産権とミックスして構築できることが分かります。
 長野県は、りんごの品種「シナノゴールド」をイタリア南チロル地方の協同組合に「YELLOW」の商標権を許諾することで、品種を世界展開しています。

■育成者権管理機関
 国は、育成者権管理機関の設立を検討しています。これは、海外におけるライセンス取引や品種の管理を行い、育成者権者にロイヤリティを還元することを目指すものです。育成者権管理機関が設立されれば、育成者権者は、知財ミックスによる対価を得るチャンスが増えるでしょう。

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